webライター 西海 登の営業日記

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転職について考えてみる

あんまりしょうもないネタばかり書いているわけにもいかないので、少し真面目にブログ投稿をしてみようと思います。

 

テーマとして考えるのは、転職です。

私自身、大手企業で働いた経験もありますが、一度の転職経験があります。

 

学生時代が終わって、最初に就職をしたのが、20代のことですので、なかなかそんな働くとは何かということまで考えて就職をしていなかったという普通の学生上がりの会社員でした。

当時、大手企業に就職が決まったという事で舞い上がっていたのだと思います。

そんな自分が三年後、転職を考えて行動するとはその当時の自分からは夢にも思っていなかったのです。

 

会社に入ること以外あまり何も考えていなかった

まず第一に、会社に入るという事が目的となってしまっていた節があり、働かなければならないということをあまり考えていなかったということがまずあります。

大手企業でしたので、同期の数も多かったため、愚痴を言い合ったり、会社の将来はこうあるべきだなどと偉そうな話を居酒屋で話したりもしました。

それはそれで楽しくてよかったのですが、このまま行っても大したことないかもなと漠然と思っていたのも事実です。

 

激務の職場で感じだこと

配属は神奈川に近いところだったのですが、入社後1年程たつと、半年間OJTという名の激務の職場への人質として派遣される期間がありました。

半年間だけですが、東京都港区の高層ビルの職場で働くビジネスマンの生活が始まります。

この半年間が本当に地獄でした。自分の能力ではどうしようもない量の仕事を任され、期日も厳しく、少しでも遅れると叱咤される毎日です。毎日終電で帰り、間に合わなければ、始業の二時間前に出社するという社畜という言葉にふさわしいような生活をすることになります。

はっきり言って、この生活がずっと続くようであれば、もう辞めるしかないなと考えていた時代でした。

「自分がいた頃はまだいいほうだ、前はもっとひどかった」などと自慢げにかかる先輩を見て、すごいな仕事できるなと感じていた世間知らずだった頃でもあります。

この当時は朝降りる駅を間違えて遅れたり、帰りに居眠りをしてはっと起きて、乗り過ごしたことを知ったりという、疲れが隠し切れないようなことが頻繁に起こるようになります。

ただ人が足りないだけなのか、OJTの延長などという話も出てきて、心の中でふざけるなと言っていました。もちろん、面と向かっては言っていません。

 

突然の地方転勤、暇を持て余す

そんな激務の職場の期間延長という話があって数週間後、突然転勤だと言われて慌てます。

は?第一印象がそれでした。

一週間で引っ越し準備をしろというのか?こっちでの生活の基盤が整ってきた矢先にこんなのはなんだ?しかも誰も自分に転勤になる等話してくれなかったぞ?

一気に会社に対する不信感が増します。

突然の転勤で生活も激変します。

地方で50代で定年待ちのおじさん方の介護をするような生活が始まります。

飲み会をしても毎回同じ話を聞いたり、仕事も押し付けられましたが、激務の時代と比べると比較にならないぐらいの少量です。

若い人が少ない地方の街です。当時20代だった自分にとって職場で友達を見つけるということもできません。結局、この地域で友達らしい人は一人もできませんでした。

激務の生活から一転、何をしたらいいのか考える毎日を送り、もう何も信じられなくなってしまいました。

転職活動を始め、現在の仕事に転職し、もう10年以上になります。

これらの転職から得られたしくじり先生の教訓は以下のようなものになります。

 

失敗1 就職を労働契約と考えていなかった

前社では、会社の名前を見て、安定した仕事だと過信していました。

しかし、実際には職場を転々とし、総合職と言えば聞こえがいいですが、会社に人生を振り回されているような感じがします。

転職に至るまで、会社と自分との間にあるはずだった労働契約書を一度も見たことがありませんでした。

おそらく会社に都合の良い内容で書かれていたのでしょう。

契約と知らない人にとっては仕事だからと言えば何でもしてしまう会社のイヌになってしまいます。

就職は会社と労働を対価に報酬をもらう労働契約です。

 

失敗2 安請負をしすぎた

転勤の一週間前まで何も知らなかったなど、今考えてみると異常です。

聞いていない、ちょっと待ってくれといって断ることもできたはずです。

しかしその当時、一週間前に転勤を言われて、既婚者は幼稚園が決まっていたのに4月からキャンセルになったなどの話を聞き、これが当たり前なんだと思いこまされていました。

労働契約書に真っ当なことが書かれていても、こうした無茶な要求を本人が了承すれば、契約どうこうなど関係ありません。

今はブラック企業の規制が厳しくなりこうした話も少なくなったのかもしれませんが、大手企業でもこうしたことを平気で行われていました。

これだけ無茶な異動を受け入れるのですから、何か交換条件を提示するべきでした。

自分を安く売ることは、いいように使われる危険性をはらみます。

 

失敗3 誰かがなんとかしてくれると考えていた

仕事において、こうした誰かの穴を埋めるような異動ばかりを繰り返すと、どこかで報われるだろうと漠然と考えていました。

しかし声を挙げなければ、誰も見向きもしないということをこの当時の自分は全く気が付いていませんでした。

辞めると言い出した時に、今よりいい会社はないなどとお決まりの引き留め文句をたくさん聞きました。

しかし、それはその人にとってこの会社よりいい会社がないに過ぎないわけで、他の人にとっても同じとは限りません。そうした価値観の人と話しても何の解決にもなりません。

転職を考えるようになる前は、こうした人たちの中でも、自分のことをなんとかしてくれるんじゃないか、頑張っていると認めてくれるんじゃないかと考えていました。

しかし、残念ながら自分のことに精一杯で他人まで気を使うということまでにはなりませんでした。上司ですら、その上の上司に気に入られようと必死でしたから、そんな余裕はありませんでした。

自分の身は自分で守る時代になってきているのかなと思います。

 

転職はしないに越したことはないでしょう。

しかし、一度転職をしてみると、今までの自分を振り返ってその視野の狭さに驚くのではないでしょうか?

転職を薦めるわけではありませんが、転職のある人生もありなんじゃないかなと思います。

 

(クライアントの皆さん!! 転職関連の記事依頼 お待ちしています。)

 

もう一度行きたい場所

お題「もう一度行きたい場所」

 

初めて一人暮らしをした部屋

 

環境は悪く、日当たりも悪い

でも自分にとっては初めてだらけだった。

 

電気代、ガス代はどうやって払う?

新聞屋の口車に乗せられて、新聞取らされた。

 

夏に試験があり、勉強ばかりしていたは8月下旬。

コンビニに行った帰り、やたら浴衣の人多いなと思っていたら世間は花火大会だった。

 

ろくな思い出はないが、その部屋がなければ今の自分はない。

 

もう津波で流されてしまったけど。

ここで一句

お題「ここで一句」

 

夏フェスや

つはものどもが

夢の跡

 

 

私ごとで恐縮なのですが、

夏フェスに行って騒いでいるような連中とは私とは交流することはないでしょう。

 

「目当てのバンド来てるんだ。夏だし、みに行こうぜ。」

 

夏だし、に  ?となってしまいます。

 

夏だったらなんだっていいのか?

 

いつから始まったのか、

この夏フェスという文化は。

 

 夏フェスなんかで騒いでいる奴らは、おそらく秋にはハロウィン、冬にはクリスマス、ワールドカップの時には、サッカーのルールもろくに知らないくせして、渋谷で応援という名の馬鹿騒ぎをしているのでしょう。

 

 

そんな夏フェスの会場は、秋には誰も訪れないつわものどもの夢の跡になっています。

 

 

 

カバンの中身か

今週のお題「カバンの中身」

 

カバンの中身はそれぞれの個性が出ますよね。

他の人から見たら「?」でも、その人にとってはカバンの中にないと落ち着かなかったりなんて言うものもよくあります。

 

例えば、、、

 

 

これ

 

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ビーナッツが大好きで

これがカバンにないと落ち着きません。

脂肪分が多い?

でもそんなの関係ねぇ

って感じです。

 

あと、食べ終わった後のお盆もよーくみてください。

 

万が一強盗にあってしまい身ぐるみを全部取られてしまったとしても、

 

アキラ〇〇%みたいに股間を隠して逃げることもできるじゃないですか!!!!

 

え?

 

 

強盗はまずカバンからひったくるんじゃないかって?

 

 

 全身ユ○クロのお前の服に強盗は興味ないって?

 

 

ご指摘の通りです。

 

これらは全てネタだからです。

 

お後が、

 

よろしいようで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※この投稿は、ピーナッツが好きということと全身ユ○クロという部分以外は全てフィクションです。

 

 

 

 

 

バズる記事の作り方

ネットにはバズる記事というものが存在します。

 

バズるとは、あるブログ投稿やツイッターでのつぶやきにより、批判なり擁護なりのコメントが殺到する状態のことを言います。

 

この状況はいとも簡単に作ることができてしまうと言うことがこの投稿での言いたいわけであります。

 

第一に世間的に言われていることと真逆のことを言います。

 特に悪いことを擁護する内容であれば効果は抜群です。

 

まずこれが念頭に来ます。

例  電車内での通話は何が問題なの?

 

その後に、その主張にある程度の説得力をもたせます

 

例  

飛行機では、携帯の電源をオフが常識だったが、今は機内モードでも大丈夫になった

電車もスマートフォンの使用ができるようになった

電車内で大声で喋っている人たちはどうなんだ?

道路では歩きながらなら話している人もいるのに、公共の場である電車内での通話はなぜいけないのか?

 

などと、理路整然と正論を並べていきます。

 

これがマナーを守れと言う人たちの闘争心に火をつけるのです。

(決してマナーを守る人を否定しているわけではありません。ここでバズりたくありません)

 

これは、ベビーカーと満員電車にのるのがなぜいけないのかと主張は似ています。

 

ここまでくればこの記事をある程度、露出させることで炎上するのを待つことができます。

 

あとはバズるのを待つばかりと言うわけです。

 

しかし、このやり方でアクセス数を稼いだとしても、とてもリスキーです。

なぜなら読んでいる人に少なく見積もっても半分は敵に回していることになります。

批判コメントばかりを読まれて、肝心の記事については読まれない可能性も出てきます。

 

記事の内容を拡大解釈されて、コメント欄でディスられる可能性もあります。

そうなると記事の内容は完全に別物になってしまう危険性すら生まれてしまうわけです。

 

このように批判によってアクセス数を稼ぐことは意外と簡単です。

少し前のアクセス数至上主義には正直うんざりしていました。

バズる記事を書くのは簡単ですが、それは禁じ手であることを認識しましょうね。

 

 

 

小説:交差点(了)

以前、ブログに掲載していたものです。

これは終わりまで書かれております。

それなりに好評でした。自画自賛ですみません。

 

 

 

 

コンクリートの校庭は、東京ではあまり珍しくなくなった。


「おい朝岡、何サボってんだよ」


今日もこの校庭に怒鳴り声が響く。いつものことだ。


「先生。今日俺、あの日だから」


「は?」


「全く、保健体育の先生がとぼけちゃって。生理だよ、生理」


「そんなことぐらい知ってる。くだらん事言ってないで早く走れ」


朝岡洋平は体育の授業となるといつもこんな調子だった。彼ももう3年の春を迎え、大学受験の話が教室内をちらつくようになってきた。今日もこの後、担任との進路面談が待ち構えていた。


「俺を高橋尚子みたいにしてくれるってんだったら走ってもいいぜ。小出監督


もう何も言わなかった。呆れてその場を去ってしまった。いつもの彼のやり口だ。


「相変わらず水沢を交わすのがうまいな」


朝岡のもとに長身の男が背後から彼につぶやいた。


「宇佐美。久しぶりだな」


宇佐美慶介の家は江戸時代から続く由緒正しい商人の家だ。バブルの頃に始めた貿易関係の会社が当たり、それを契機に様々な店を経営し、今では小さな財閥だ。


「2週間、どこに行ってたんだよ」


「ちょっと買い付けの仕事でタイに行ってた」


彼は長男であり、両親も後を継いで欲しいらしく、彼に輸入雑貨のオンラインショップの仕事を任せていた。朝岡も最初はなんとなく彼を「お坊ちゃま」的なやつという目で見ていたが、話してみると逆に見習いたいぐらいの商売人としてのたくましさがあり、今では彼の親友の一人だ。


「さすが。お坊ちゃまは違うね」


「うちの会社の経費だから、遊んできたわけじゃないよ」


「・・・。お前の頭の中って、どうなってるか見てみたいよ。でも、もっと高校生活満喫したほうがいいんじゃねぇの? 俺みたいに先生おちょくったり」


朝岡はそう言いながら、フェンスにもたれかかり遠くを眺めた。


「俺は高校よりバイトのほうが忙しいから。これ、お前にやるよ。タイのお土産」


と、宇佐美は朝岡に象のキーホルダーを手渡した。


「サンキュー。これ、いくらで売るの?」


「450円」


朝岡はキーホルダーを顔の前でぶら下げて、左右に揺れる象を見ながらつぶやいた。


「やっぱり慶介は俺と違って将来があるよな」


すると宇佐美は少しうつむいて、



「父さんの会社、バブルはじけてから赤字続きでさ。最近やっと持ち直したんだけど、いろんなところに借金ができちゃって。それが原因で今父さん、母さんと別居中なんだ」


と、打ち明けた。朝岡は彼に返す言葉が見つからなかった。


「忙しいからって言って家に遊びに来なかっただろ? 実は親の別居を知られたくなくて言ってただけだったんだ」


宇佐美はうつむいたまま続けた。朝岡も彼がこんな現実を抱えていたことを知らずに、彼をからかったりしていたことが少なくはなかった。


「……。いいじゃん、そんなこと」


宇佐美は朝岡が言ったことが意外だったらしく、目を丸くして彼を見た。


「お前ならできるよ。借金がいくらあるか知らないけど、お前ならきっとやれるよ」


朝岡は起き上がると宇佐美に言った。


「じゃ、俺は進路面談があるから。お土産サンキュー」


彼は踵を返すと、校舎のほうへ歩いていった。残された宇佐美は


「強いな。洋平は」


と、彼の後姿を見ながら呟いた。


校舎の中は、去年改築工事が終わったこともあり、異様に新しく、新築建造物の匂いが鼻を突いていた。


「お前の第一志望は分かった。でも、そのためには今以上に勉強しないと合格は無理だぞ」


朝岡の担任、神保だ。彼も体育の水沢同様、朝岡には手を焼いていた。


「専門学校でもいいんだぞ」


朝岡は何も言わなかった。


「第一に志望理由を考えたことがあるのか? 早稲田の政経なんて生半可な気持ちじゃ到底受からないぞ」


「先生も行きたかったんでしょ? ここ」


朝岡は目を細めた。


「俺の話はいいんだよ。お前はどうなんだよ。志望動機があるのか?」


「先生、行きたかったんでしょ? ここ。それは自分のステータスのため?」


神保は舌打ちをすると、話をするのをやめ、大きくため息をついた。


「朝岡、お前は将来何がしたいんだ」


「……」


「大学は自分の好きなことを勉強しに行くところだ。まず何をしたいのか教えてくれ」


なんとなく朝岡に根負けしたようにも見えた。


「じゃ、逆に教えてください。なぜ大学へ行っても就職できない人がたくさんいるんですか?」


「それは…」


「自分の好きなことを勉強して、親にたくさん学費を出してもらって、最後の最後で就職できませんでしたってあまりにも悪すぎる冗談ですよ。自己満足の世界じゃないですか?」


「そんなに大学へ行くのが嫌なら、就職でもすればいいだろ!」


神保は机を叩いた。ついに堪忍袋の緒が切れたらしい。


朝岡は神保と目を合わせなかった。就職ができることならそうしたいと彼も思っていた。


「もういい。来週の月曜にもう一度面談をする。時間をやるから真面目に自分の進路を考えて来い」


朝岡は何も言わずに立ち上がると、神保の方を見ずに教室を出て行った。


「結構激しかったじゃん。外まで聞こえたよ」


廊下には順番を待っていた井上理沙子が廊下に用意されていた椅子に腰掛けていた。


「仲悪いからな、あと今日、慶介が学校来てた」


朝岡、井上、宇佐美の3人は高校入学時、席が近かったこともあり、今でも仲がよかった。恋愛関係にはならなかったが、それが逆によかったのかもしれないと朝岡は考えていた。


「タイに行ってきたんだってさ。俺もあいつぐらい商売の才能があれば、今すぐにでも高校辞めてもいいのになぁ」


「慶介はあたしたちとは違うよ。あたしも進路なんて全然。入れる大学探すので精一杯だった」


理沙子は自分の進路調書を眺めながら言った。


「じゃ、そろそろ時間だから中に入るね」


「おう、神保によろしく伝えといて」


理沙子は教室の中に入っていった。朝岡は来週の月曜日のことを考えながら廊下を歩いた。

今まで自分の将来を考えたことがないわけではなかった。高校では大学に行かなければ立派な大人になれないというようなニュアンスで話をされることが多い。しかし、実際に宇佐美を見ると、それが本当に正しいのかと彼は疑問を持っていた。


朝岡の家は埼玉県に近い。この辺一帯は子供を持つ家の教育熱が異常なもので、幼稚園時代からのお受験闘争も日常だった。朝岡の家も例外ではなかった。彼も幼稚園をたくさん受験させられた。

そんな親と今の状態の朝岡はうまくいっていないのは既に想像がつく。彼は家に入るとただいまも言わずに、部屋へと入っていった。部屋へ入るとパソコンのスイッチを入れ、宇佐美の経営しているネットショップへ飛んだ。


「いろいろ仕入れたんだな。あいつ」


そこには、いかにもアジアン雑貨といった感じのバックやネックレスがあった。宇佐美のセンスが感じられた。

朝岡は宇佐美のオンラインショップのサイトを閉じると、ベッドに倒れこんだ。親友は頑張っているというのに、自分はこの様であることが悔しくもあり、情けなかった。


「来週の月曜までに……、か」


朝岡には実際になりたいものなどなかった。お金を稼ぎたいといった欲望も特になく、現代社会に最も多い将来のことを考えない若者の一人だった。自分が何をしたいのかよく分からずに高校3年まで来てしまうと、小学生の時から10年分ぐらい無駄な時間が過ぎたように彼には思えた。

だからといって勉強をする気にもなれず、インターネットをしてみたり、夜中に近所のコンビニでたむろしている彼と同じ中学の友人のグループに、話の輪に入れてもらったりと大学受験を控えている高校3年とは思えないように生活をしていた。

ふとパソコンのディスプレイに目をやると、見知らぬウインドウが開いていた。


「またか」


ネットサーフィンをしていくといらないソフトまでインストールされてしまうことが多い。彼はその類のウインドウだろうと思い、ウインドウを閉じにパソコンの方に向かった。





未来の自分に会おう…。






彼は閉じようとした手を止めた。そこには10年後の自分と会える不思議な交差点の逸話と、その交差点の写真が掲載されていた。

ネット社会とは恐ろしいものだ。インターネットから広がった噂が社会を混乱させてしまうこともある。今の彼も、まさにその噂の虜になりかけていた。彼の置かれた状況であればそうなってしまうのも無理はないだろう。

未来の自分に会えたとしたら何を訊くだろうか。あのときの自分の選択は間違っていなかっただろうか、今やっておかなければ後悔することは何か、など挙げていけばきりがない。朝岡もそれは同じだった。10年後といえば他の同級生と同じように大学を目指し、社会人になっている頃である。

朝岡は10年後の自分に訊きたいことが山ほどあった。そのなかでももっとも訊きたかったことは、今は幸せかということだった。


朝岡はウインドウを閉じると、またベッドに向かった。仰向けで天井を仰ぎながらまた考えた。

10年後の自分は、今の自分を恨んではいないだろうか…。彼も今の生活が楽しかったが、このままでいいとは決して思ってはいなかった。

宇佐美や理沙子とも将来の話をする機会は何度かあったが、他の二人は将来の方向性だけは決まっていたのに対して、朝岡は何も決まっていなかった。

成績もかなり悪く、補習や追試を受けるのが習慣となっていた朝岡にとって10年後の将来は考えたくもないことだった。

彼がそんなことを考えていると、携帯がメール受信を知らせた。理沙子からのメールだった。彼はメールの内容を見て、鳥肌が立った。


件名:知ってる?

本文:今日の面談やばかったよ。かなりきつぃこと言われちゃった。ところで未来の自分と会える交差点って知ってる?


朝岡もさっき知ったばかりだった。誰かの仕業なんじゃないかとまで思った。ちょっと前に流行った口裂け女トイレの花子さんのような根も葉もない噂だとさっきまでは半信半疑だったが、理沙子からのメールでちょっと彼の考えが変わり始めた。


件名:RE:知ってる?

本文:どこで知ったんだよ。俺もさっきネットやってて偶然そのページ見たばっかりなんだけど。


理沙子への返信をした。すると理沙子はネットをやっていたときに勝手に開いたウインドウに載っていたと言った。朝岡と全く同じだった。理沙子は面白そうだから行ってみようと誘ってきたが、朝岡は少し気味が悪いと感じ、宇佐美が行くといえば行くと返信した。

きっと宇佐美は忙しいといって断るに違いないと朝岡は考えた。


「おはよ。慶介も面白そうだから行くって言ってたよ」


朝岡の予想は辛くも裏切られた。忙しいと言わなかったのだ。


「あ、そう。じゃ俺も行くよ。でも未来の自分ってなんか話からして怪しくない?」


「怪しくなきゃわざわざ見になんか行かないでしょ」

それもそうだった。未来の自分が気にならない人間などこの世にいない。


「なんか面白そうじゃん」


「慶介、忙しくないのかよ」


宇佐美が朝から学校にいることは珍しかった。


「タイの雑貨セールの営業が一段落したからさ。しばらくは学校に顔出せるよ」


宇佐美は目にくまを作っていた。彼にとって朝は夜の延長であり、さわやかだと感じることも少ない。それでも学校へ来ているのは、彼が借金や両親のトラブル、オンラインショップの売り上げなどを忘れて、友達と騒げる唯一の場所だからだった。


「ま、慶介が行くんならしょうがないか」


朝岡は渋々行くことにした。未来に自分に会える交差点なんて、オカルト好きが仕組んだ悪戯に違いないと思っていたが、口には出さなかった。


「箱根の方にあるって書いてあったよ」


理沙子はもう行く気でいた。


「箱根か。今まで行ったこともないし、行ってみるのもいいな」


宇佐美も乗ってきた。もう朝岡も行かざるおえなかった。


結局、3人は土曜日に行くことに決めた。他の同級生は受験勉強をやっている中、箱根への旅行は少し気分がよかった。


「神保の声が聞こえてくるよ。お前ら受験生だろって」


と、言って朝岡が車窓を眺めた。小田原線は厚木を越えて、そろそろ箱根の入り口へと差し掛かっていた。


理沙子:ねえ、10年後の自分ってどうなってるか想像つく?

朝岡:さあ。でも結婚してないことはなんとなく想像つく。

理沙子:どうして? 28歳だよ。

朝岡:俺の性格見れば分かるでしょ。

理沙子:ああ。

朝岡:納得するなよ。

宇佐美:ここの結婚はなさそうだな。


彼らの乗っている電車は、トンネルに差し掛かった。


宇佐美:このトンネル。出口がなかったらどうする?

朝岡:何急に変なこと言い出すんだよ。

宇佐美:いや、なんとなく。トンネルってなんか入るたびにそう思うことがあるんだ。

朝岡:へぇ。考えることが違うね。

理沙子:でも、なんか分かる気がするな。

朝岡:ふーん。


宇佐美は商売をしているためにトンネルをマイナスイメージで捉えているのだろう、と朝岡は感じていた。今まで何もかもうまく言っているように思えた宇佐美にも大変な一面があることに気付き始めていた。


朝岡:ところで、理沙は面談の時に神保に何か言われた?

理沙子:うん。もっと勉強をしろって。

朝岡:またそれか。それしか言うことがないのかよ、あいつは。

宇佐美:結局、うちの高校の先生は営業をしたいんだよ。有名な大学に生徒を合格させて、募集要項に○○大学 何名って書いたパンフレットを持って誇らしげに中学を回りたいだけ。その後の生徒の人生なんて関係ないのさ。


3人は黙り込んだ。奇麗事だけでは語れない部分を商売と通して宇佐美はたくさん知っていたのだ。


朝岡:お金で買えないものって何?

理沙子:何? 急に。

朝岡:いや、ちょっとね。大学受験も自分の将来のためとか言って、結局は学校の商売道具にされているのかなってさ。

宇佐美:その学校のおかげで大学受験通れるんだから問題ないでしょって言うんだよ、学校は。でも俺が納得できないのはそういうところを学校が認めずに綺麗事ばっか並べるところ。

朝岡:有名大学に合格しているのは、本校の生徒が優秀だからです、とか?

宇佐美:そう。本当に優秀なら学校なんか行かないだろってこと。

理沙子:でも、そう考えるとお金で買えないものってなんだろう。

朝岡:お金、かなぁ。

宇佐美:かもな。お金で買えないものはお金か。皮肉だな。


3人は笑った。楽しいが、ちょっと悲しい笑いだった。電車はついさっきまで都会の中を走っていたことが嘘だったように田園風景の中を走っていた。そう考えると、都会は小さい。


理沙子:28歳のあたしはお金持ってるのかな?

宇佐美:いくらかは持ってるんじゃない?

朝岡:慶介と結婚してたら社長夫人か。

宇佐美:あのなぁ。

理沙子:慶介だったら、結婚してもいいかな。

宇佐美:おい、理沙。

理沙子:本気にしてるし。


笑いながら、朝岡は、将来本当にそうなるではないかと予感した。だか、彼はそれを言わなかった。これから10年後の自分たちに会いに行くからだ。


朝岡:理沙はお金持っているやつが好き?

理沙子:……。あたしは別にお金がなくても頑張ってる人が好き。

朝岡:頑張ってる人か。10年後の俺は頑張っているのかな?

宇佐美:お前は強いから頑張っていると思うよ。

朝岡:強い? 俺が?

宇佐美:うん。俺が羨ましいぐらい。いろんな先生、敵に回しても全然怯まないし。弱っているときによく励ますし。弱っているやつを放っておけないやつは強いよ。

朝岡:そっか。じゃ、その強さをもう少し成績にも反映させないとな。


宇佐美の言葉は、朝岡にとってありがとうと何回言っても足りないぐらいに思えた。先生や親から、落ちこぼれ扱いを受けている朝岡は学校や家が面白くなく、家でも考えた程だった。


何時間というほどでもないが、電車に乗っている時間を彼らは忘れた。あたりは薄暗い暗闇に包まれ始めた。


理沙子:ねえ、だんだん暗くなってきたけど大丈夫なの?

宇佐美:夜10時を回らないと交差点で会えないんだろ?

朝岡:ここまで来て行きたくないとか言わないよな。

理沙子:そうじゃないけど。なんか不安になってきて。


理沙子の心配は二人とも同じだった。夜中、誰もいない田舎の交差点に行きたいなんて考えるやつはそういない。


理沙子:確か小田原からバスに乗り換えるんだっけ?

宇佐美:箱根の方へちょっと上ったところらしいけど、行ってみないとわからないよ。


と、宇佐美はネットからプリントアウトした交差点の写真を眺めた。一見してただの交差点である。本当にこんなところで未来の自分になど会えるのか不思議であった。

3人は小田原で芦ノ湖行きのバスに乗った。時刻表を見るからに最終だった。バスの運転手もこんな時間にどこへ行くんだという顔で3人をまじまじと見た。まさか、行き先を聞かれて未来の自分に会いになっていえるわけがない。

小田原の街を過ぎて、すぐにバスは山道へと入っていった。何回もカーブする昔からの山道だった。とんでもないことろに来てしまったと3人は思ったが、今更引き返す訳にもいかず、ただ黙ってバスに乗っていた。

その光景は、さながら心中自殺でも図りに芦ノ湖まで行くようにも見えた。


どれくらいバスに乗ったかは3人とも忘れた。何回もカーブを曲がり、なんとなく冥界に迷い込んだようだった。

「次のバス停で降りるよ」

宇佐美は2人に言った。宇佐美も本当にそのバス停で降りていいものかは、はっきりと分からなかった。しかし、もう後戻りはできなかった。

「そろそろか」

朝岡も少し緊張していた。

「10年後のあたしに何て言おう」

理沙子も電車の中での元気がどこかへ消えていた。


3人はバスを降りた。時刻は10時を回っていた。交通量の多い道ではないのか、車は見渡す限り走ってはいなかった。3人の前にはまっすぐ行くと芦ノ湖、右へ行くと小田原市街と書かれた交差点を示す青い道案内の標識があった。

これが例の交差点かということに確信は持てなかった。

そのT字になっているちょうど真ん中には街灯が設置されていた。

「ねえ、あそこに誰かいない?」

理沙子が訊いた。確かに街灯の下には人影があった。こんな時間にこんな人気のない山道で、一人でいること自体不自然であった。

「こっちに近づいてない?」

その人影は3人の存在に気がついたのか、こっちへ向かっていた。3人に緊張が走った。

「なあ、もう帰ろう? もういいだろ? 逃げた方がいいんじゃ」

朝岡だった。

「あれは幽霊なんかじゃない。人だ」

宇佐美は冷静だった。


人影が近づいてきた……。


「朝岡洋平さん、井上理沙子さん、そして、宇佐美慶介さんですね」

スーツ姿の男が3人に話しかけてきた。3人は見知らぬ男に名前を知られていることに恐怖と驚きを隠せずにいた。

「お待ちしておりました。未来の自分に会える交差点にようこそ」

「一体どういうことだ」

口火を切ったのは宇佐美だった。

「そろそろ分かりますよ。後もう少しで車が来ます」

男の言っていることが分からなかった。すると、3人の来た山道を一台のスポーツカーが猛スピードで走ってきた。ここは山道の中でも直線道路になっていた。120キロぐらいは出ていたに違いない。

「あの車です。あの車をよく見ててください」

スポーツカーが交差点に差し掛かったそのとき、右からワゴン車が出てきた。

「危ない!」

理沙子が叫んだ。しかし、120キロの鉄の塊は早々止まる事ができなかった。


3人の目の前には惨劇が繰り広げられていた。スポーツカーのフロントガラスはなかった。それが衝突前は車だったことは微かにしか分からない。ワゴン車も木を2,3本倒してやっと止まっていた。

「あれはなんだか分かりますよね。無謀な運転の不注意による事故です」

「おっさん、何言ってんだよ。早く助けないとまずいだろ!!」

朝岡が怒号を上げた。

「もう3人は死んでいます」

「は?」

「あの車の中には10年後のあなた方が乗っています」

何を言われているか分からなかった。

「宇佐美慶介さん、あなたはこの10年で今の事業を軌道に乗せます。インターネット業界でもその名を知られるほどの敏腕実業家になります」

「だからどうしたって言うんだよ」

宇佐美も朝岡同様、事故現場で混乱を隠せずにいた。

「朝岡洋平さん、あなたは結局大学へは行かず、家の近くの小さな建築会社に就職します。そこで建物を建てるという仕事に魅了され、建築事務所を開きます」

「……。何で大学のことを知っているんだ」

朝岡は大学へ行くことに迷いを持っていることが、男の話している内容と共通していることに驚きを隠せなかった。

「ここは未来の自分に会える交差点です。それぐらいのことは把握しています」

男は冷静に一蹴した。

「建築事務所は持ち前の営業力で業績を伸ばし、独自のセンスで建築業界をリードし、事務所は注目されることとなります」

男は、呆気に取られている朝岡に目をやると、理沙子の方を見た。

「井上理沙子さん、あなたは見事に何十倍という競争率を勝ち抜いて、美大の造形学科へ入学します。そして3年後の大学在学中に、美術館のコンクールで大賞を取り、個展で全国を回る日々を送っている事でしょう」

「どうしてあたしが美大を目指していることを……」

3人は初めて会ったこの男にすべてを知られているようで、さっきよりも大きな恐怖感に包まれ、黙り込んだ。


「……。まあ、でもよかったじゃん。10年後もみんなそれぞれ活躍しているみたいで」

口火を切ったのは朝岡だった。

「いい話はここまでです」

男は表情を一転させ、事故のあった交差点を指差した。

「さっきも言いましたが、あそこに見えるのが10年後の今日のあなた方の姿です」

「……」

3人はなんとなくではあるが、状況を把握し始めた。なぜスポーツカーだったのか、120キロという非常なスピードでこんな山道を登っていたのか、そして、なぜ今日この場所に3人が呼び出されたのか。男の話は辻褄が合っていた。


「10年後の今日、あなた方は同級会に参加することとなります。その席でそれぞれの分野で活躍しているあなた方がほぼ10年ぶりに再会します」

男は表情を変えずに続けた。3人は徐々に男の話を真面目に聞くようになっていた。

「宇佐美さんは事業で成功して、年商100億円を超える会社の経営をしていましたので同級会にはスポーツカーで来ました。朝岡さんも前日のテナントビル建設会議の資料作りでほぼ徹夜にも関わらず、親友と久しぶりに会うということで仙台からとんぼ返りをしてきました」

3人は男の話に興味を持つようになっていた。

「井上さんも個展で全国を飛び回っていたので、同級会前日も長崎にいたのですが、朝岡さん同様に朝一番の飛行機で東京へと帰ってきました」

「スポーツカーってまさか……」

宇佐美は気づいたようだった。男は頷いた。

「もうお分かりですね。同級会の会場は、箱根の温泉旅館です」

3人の背中に悪寒が走った。今までの話がすべてつながっていた。


10年後の今日―


「遅いな。何やってんだよ」

宇佐美(28)は腕時計に目をやった。時刻は午後9時半を過ぎていた。夜になっても真紅のフェラーリは目立つ。

「なんかいかにも金持ちって感じだよな」

宇佐美は顔を上げた。そこにはスーツを着てすっかり大人になった朝岡(28)が立っていた。

「朝岡。久しぶりだな。高校卒業以来か」

「ああ。何かとお互い忙しかったから、メールぐらいでしかやりとりしてなかったもんな」

「理沙は?」

「俺と同じ新幹線には乗ってなかったけど……」

朝岡はふと後ろをみた。そこにはポニーテールでTシャツにジーンズ姿の理沙子(28)がいた。

「誰が同じ新幹線に乗ってなかったって?」

朝岡の持っていた高校時代の理沙子の印象は少し幼さの残る丸顔だったのだが、今目の前にいる理沙子は痩せて大人っぽくなっていた。

「理沙か?」

「きれいになってて驚いた?」

図星だった。

「これ慶介の車? フェラーリじゃん。あたしも慶介と結婚しようかな」

3人とも大人になっていた。高校時代より多少お金もあり、人生の中でも楽しい時期の一つでもあった。3人は車に乗ると小田原駅のロータリーから箱根を目指した。

「タバコ吸うなら窓開けろよ」

宇佐美は10年経ってもタバコは好きになれなかった。しかし朝岡は遠慮なく窓を明けてマイルドセブンに火をつけた。彼は運転しながら近況を話した。彼はあれから親の会社を引き継いだが、店の方は自分でやってきたネットショップの方が好調だったため、店を縮小し、ネット事業を行っていた。それが大当たりしたのだった。今ではフェラーリにも乗れる富豪生活だ。

「うらやましいよ。俺は親と喧嘩の毎日が何年続いたか……」

朝岡は普通高校から大学へは行かずに、近所の建築会社へ就職した。当然、大学進学を望んでいた彼の両親とは上手くいかず、就職して半年後には会社の空いていた一室で寝泊りするようになっていた。

「でも、今は立派な建築家だろ? この前雑誌に出てたよ。お前の作ったマンション」

「まあ、今はね。でもお前ほど金持ちじゃないぞ」

朝岡の目は少し本気になっていた。しかし、宇佐美にもつらい過去があることを既に知っていた。

「両親はどうなったんだ? 高校時代は別居中だって言ってたけど」

「嘘? そうだったの?」

理沙子は初めて聞いたようだった。どうやら宇佐美は朝岡にしか話していなかったらしい。

「ああ、お袋は3年前くも膜下出血で死んだよ。俺も親父の会社の社長になったときの祝賀会でしか会わなかったんだ。それっきりで忙しくて、倒れたって聞いたときもちょうど業務提携の交渉でアメリカにいて、見舞いにすらいけなかったよ」

「……。そうか」

「忙しすぎるのもいいとは思わない」

宇佐美はハンドルを握る手に少し力が入った。道は小田原の街を出て、山を登り始めていた。


仕事では成功を収めている宇佐美が、私生活ではあまりにも不幸が続いていたことは、やはり神様は存在するということを意味しているように思えた。

「あ、もうこんな時間だよ」

宇佐美は時計を見た。既に10時を回っていた。

「会場9時でしょ」

理沙子が後部座席から言った。理沙子も多忙な毎日だった。大学在学中にデザイン画のコンクールで大賞を受賞してから個展の話がひっきりなしだったのだ。

「ここからじゃ、まだ30分はかかるよ」

「せっかくフェラーリなんだし、飛ばして10分で行くか?」

朝岡だった。彼も車が好きだ。少し興奮しているようだった。山道では珍しく暫く直線の道が続いていた。

「よし、アクセルべた踏み」

宇佐美も乗ってきた。高校時代を思い出していた。彼らは決して優等生ではなかった。理沙子もそんな2人に付き合うのが楽しみだった。

一気に加速がかかった。3人が後ろに力を受ける感じにシートに張り付いた。

「おおすげぇ」

「ちょっと、飛ばしすぎなんじゃ」

理沙子は少し心配になった。10年前、どこかでこれと同じような話があったことを薄々であるが思い出していた。

「危ない!!」

遅かった。黒いワゴン車がもう前に立ちはだかっていた。向こうの車も夜はあおまり車が来ない道だったこともあり、確認せずに出てきたようだ。


聞こえたのはブレーキをかけたときのタイヤがスリップする音と、車が壊れる音だった。不思議なことに痛いとか苦しいという感覚はすぐに来なかった。ただ、普段と変わらない日常が一瞬のうちになくなってしまったのだった。




「朝岡さん、井上さん、そして、宇佐美さん。あなた方は自分で思っている以上に才能があります。10年後の今日、この場所で死なれてしまっては困るのです」

「あんたは一体何者なんだ」

朝岡は訊いた。

「10年後を知るものとでも言っておきましょうか」

「で、なぜこんなことを俺たちに伝えるんだ」

「……。分からないと思いますが説明しましょう。私は警察庁の時空捜査課に所属しております。これは極秘の組織で、社会的に影響の大きな事件や事故の未然防止が主な仕事です」

3人は男の話が嘘ではないと思ったが、信じられなかった。

「この事故で宇佐美さんの会社は倒産し、朝岡さんの建築事務所も閉鎖に追い込まれます。井上さんの個展に賭けていた美術館もたくさんありました。この事故はそれぞれの分野でおおきな損失となったわけです」

10年後の自分がこんな形でこの世を去ることを知ってしまったのは、おそらくこの3人しかいないだろう。警察庁の時空捜査課所属のこの男も、自分の10年後は知らない。

占いでもなんでもない。未来の現実を知ってしまったのだ。

「10年後の自分とお会いしますか?」

男は事故のあった交差点へと先に歩いていった。赤いスポーツカーはスクラップと化していた。事故前、助手席の窓だった場所の前まで来ると男は呟いた。

「私も数々の事故現場を見てきましたが、ここまでひどいのは初めてです」

手を合わせた。3人は複雑な心境だった。10年後の自分の死体と会わなければならないということはどういうことなのか、想像がつかなかった。

「なあ、せーので見ようか」

朝岡だった。こういった場面では一番精神的に強そうなタイプに限って、一番怖がったりするものだ。

「ああ」

「い、いいよ」

2人は同調した。

「じゃ、行くぞ。  せーの!」



「おい、こんなところで何やっているんだよ」

気がつくと、辺りが明るかった。3人は昨日、ここで起きた出来事をやっと思い出した。目を開けると、そこには昨日ここまで乗ってきたバスの運転手がしゃがんで、心配そうに見つめていた。

「あれ、ここで起きた事故は?」

宇佐美が辺りを見回した。スクラップになったスポーツカーも、木を2,3本折って止まったワゴン車もなかった。山の中のいつもと変わらない朝だった。

「事故? 昨日ここで事故が起きたなんて聞いていないぞ」

運転手は不思議そうに3人を見た。

「昨日こんなところで降りたからなんか変だと思って気になってたんだ。それで朝通ったらこんなところで寝てるもんだからびっくりしたよ。死んでるのかと思った」

「……。それはご迷惑をおかけしました」

宇佐美は本当のことを話しても信じてもらえないと思い、素直に謝った。田舎の相互監視のようなものに3人は助けられたのだった。

「まあ、いいよ。とりあえず帰るなら乗りなよ」


いくら思い出しても、スクラップになったスポーツカーの中を覗いた後は思い出せなかった。

帰りのバスの中では3人とも口数は少なかった。10年後の自分に会っていないのだった。なんだか長い夢を見ていたようだった。


朝岡:なあ、俺たちって、あの男が言っていた様に10年後はすごいやつになってるのかな?

理沙子:う~ん。でもなんかちょっと怪しいよね。

宇佐美:信じるわけじゃないけど、なんとなく今と、あの男の言っていた10年後の話がつながってたからな。


3人はまた黙り込んだ。分からないことだらけだった。普通に過ごしていたはずの高校生が突然、こんなことに巻き込まれてしまったのだから無理はない。


朝岡:でも、俺は信じてるよ。慶介が10年後、商売で成功してフェラーリ乗り回してるの。

宇佐美:おい。乗り回してるって何だよ。……。俺も洋平が大工だったら、使う人のことを考えた建物作ると思うよ。バリアフリーとかの。

朝岡:バリアフリーって?

宇佐美:今のは10年後に話すべきだったかな。

理沙子:あたしもまだ誰にも言ってなかったけど、入れるところ選ぶんじゃなくて、やっぱり美大目指そう。

朝岡:理沙にもそんな才能があったなんてな。これからは井上画伯って呼ばないと。

理沙子:何それ。馬鹿にしてるの?


3人はなんとなくではあるが、自分の夢を現実のものにしようという気持ちになっていた。


この不思議な出来事があった日から10年。彼らはそれぞれの道で活躍し始めていた。

10年経てば一昔、と言われるように、3人はこの出来事を記憶の彼方に仕舞い込んでしまっていた。誰かに話しても信じてもらえるか、それが引っかかり、誰にも話さないうちに忘却の波がこの出来事を浚って逝った。


「朝岡さん。はがき届いてますよ」

朝岡の建築事務所で働くアシスタントの水上だ。彼は朝岡の建てた噴水に魅せられ、建築の道を志してこの事務所に入ってきた。

「同窓会ですか? 朝岡さんぐらいの年齢になると、久しぶりに会ったクラスメイトと思わぬ恋が、なんてこともあるみたいですよ」

「くだらないこと言ってないで、さっさと図面仕上げろよ」

「はい、すみませーん」

水上はデスクに戻っていった。朝岡ははがきを見た。ふとあることを思い出した。『10年後の自分に会おう』

朝岡は慌ててはがきを持って、自分のデスクに戻り、手帳を広げた。

あの時、男が言ってたように前日には仙台での仕事が入っていた。



そして、同窓会の会場は、箱根の温泉旅館だった。


 

小説:something to blue(途中まで)

 結婚に焦る20代を描きました。

 幸せな結婚式のために欧米では必要なsomething to blue(何か青いもの)と結婚に関する漠然とした不安(マリッジブルーのようなもの)をかけたところからです。

 

 誰かが言っていた。

 あの頃に戻りたいなら、当時聴いていた曲を聴くといい。

 確かに僕にはそういう曲があったが、自分の過去の感傷に浸るのは趣味ではない。

 だが、自分の歩いてきた道に後悔していないこともまた事実だった。

 今日もまた、僕は過去に自分を置き去りにして未来へと歩いている。

 まるで、電車に乗っているかのように周りの景色が変わっていっているが自分は全く変化していないように感じる。

 しかし、他の人は違う電車に乗っていて僕を見る。

 そして、僕は他人から見たら”移り変わる景色”だ。

 自分では変化していないように見えても、他人から見れば、時が経つにつれて自分の考え方も、見た目もかなり変化している。

 年を取るということは、そういうことだ。


 今日もいつものように、会社を定時で上がると、帰路を急いだ。

「お疲れ様でした」

 オフィスから出る押し扉ですれ違う越島課長に元気いっぱい挨拶をした。僕は帰るときだけは元気がいい。仕事中は抜け殻と言ってもいいほどだった。

「おい、自分の仕事は終わったのか?」

 予想通りの質問だ。僕は気にすることなく振り向きざまに

「はい。あとは先方さんの回答待ちなんでこれで失礼します」

 と、元気いっぱいに返してやった。越島課長は僕がいつものように笑顔を見せると、決まって何か言いたそうな顔をする。

 僕は何も言わずに、ドアを開け、エレベータへと急いだ。


 ここは、31階の高層ビルだ。僕は職場のことを大展望台と心の中で呼んでいた。そうでもしなければ、毎日の仕事でのストレスが発散されない。会社に行く、と言うのでなく、大展望台に景色を眺めに行く、と考えていた。

 エレベータはすぐに降りてしまう。登るのも早い。僕はいつも朝のエレベータがもっと遅く登れば、仕事を始めるのも遅くなるのに、と思っていた。


 ここまで聞いても分かるように、僕はダメサラリーマンだ。

 この不景気の中、こんないい場所に職場がある会社に就職できたこと自体が奇跡だった。就職活動もあまり気合を入れてやっていなかった。とりあえず、内定が出たこのITコンサルタント会社に就職したようなものだ。仕事内容はといえば、お客に説明するパワーポイントを訳も分からずに作成したり、報告書を出すだけでお客が何億という大金を銀行口座に支払われたりするものだ。言わば無形財産でお金を稼ぐ会社だ。

 と、聞こえがいいのはここまでで、結局は机上の空論を専門に作る会社だ。

 僕はこの会社に文句を言いながらも今年で10年も勤め上げてしまった。同期入社した社員はみんな結婚してしまっている。同期同士の飲み会も少なくなってくる頃だ。つい最近、同期の家に遊びに行ったときには、もう小学校1年生の男の子と、幼稚園児の女の子がいて一緒に遊んでいた。他の同期もいたが、僕が一番子供に懐かれていて、一番子供に近いのか、と軽いショックを受けてアパートに戻ってきたのを覚えている。

 今日も家へまっすぐ帰るだけだった。周りからはいろいろ言われているが、自分の時間を大切にしたいから帰っている。寂しい奴だと思われたくないから、人には彼女がいると言う仮定で話すことも多い。この年で独身をやるのも、周りの目に耐える精神力が必要だ。

 昔よりも良くなったとはいえ、30代半ばの独身男の世間の目は厳しい。事実、職場の飲み会がある度にいろいろと心配をされる。

 エレベータの扉が開いた。外は、徐々に曇り始めていた。今日の天気予報では雨は降らないと言っていたが、騙されたようだ。正門の扉を出ると、雷鳴が響いていた。都会の夕立は天気予報でも予想できない。

 駅まで歩く間に何とか降り出さないよう祈りながら歩いた。

 あのカフェまで行けば、何とか雨宿りできそうだ。僕の鼻の辺りに水滴が落ちてきた。スーツの色が変わった部分が一つ、二つと増えてきた。周りの人がさっきよりも足早に駅を目指している。

 僕もカフェの前までたどり着いた。ドアを押すと中からはコーヒーの香りが漂い、ジャズが流れていた。

 どこにでもよくあるチェーン店のカフェだ。何も珍しいところはない。僕もよく、遅刻してはここで時間をつぶしていた。会社に行きたくない日は特にそうだった。


「アイスカフェラテのトール」

 僕が遅刻したときは、ここの店員さんだけが味方だ。

 いつも座るソファー席を見た。そこにはいかにも実業家をやっていますと言わんばかりの高級スーツに身を固め、ノートパソコンと睨めっこをしている男が座っていた。僕はこういうタイプが大嫌いだった。自分は仕事ができないことも関係していたのだろうが、あからさまに自分は仕事ができますという雰囲気を作っている輩を見ると、他人でも軽く睨み付けてしまうくせが、この10年でついてしまったのだった。

 僕はその席を男に気づかれないように睨み付けると、素通りした。本当はあんな風になりたいのかもしれない。

 もう一つの窓際のソファー席に座ると、早速カバンから雑誌を取り出した。30代の会社員をターゲットにした大衆誌だ。僕は「FXで下流社会から脱却」という記事を読み始めた。

 投資……ねぇ。僕は心の中で呟いた。会社員が気軽に投資をできる時代になったが、僕はあまりやる気にはならなかった。証券会社向けのネットワーク構築の仕事を手伝ったときに、証券業界の裏事情を嫌というほど思い知らされたからだ。僕は流し読みで次のページへ移った。

 結婚できない男のここがダメ。

 タイムリーな記事だ。自分でもなんとかしないといけないと思っているところに、傷口に塩を塗るかと言いたくなる。

 結婚はしようと思えばいつでも……と言う人がいるが、それは疑わしい。何十億という人がいる中で、一人を選ぶのだから、物凄い決断力だ。いつでも……と思っているうちに時間だけが流れてしまう。僕もそれは良く分かっていた。ただ、これだという人が見つからない。これも言い訳だということも良く分かっていた。

 ふと、雑誌から店の外に目をやると、雨が窓に当たり、滝のようになっていた。店の中は、滝の中にある洞窟のようになっていた。

「え? なんでそんなことになるの? 契約書にサインして、先方に送っちゃったよ」

 いつも座る席に座っていた男が、携帯電話で話している。仕事で何かのトラブルがあったのだろう。僕の場合、カフェと家には仕事は持ち込まない。

「は? 何で今更そんな事言うかな。だからあそこの物件やるの嫌だったんだよ。よく契約内容変るし、担当者馬鹿だし、もうこれ以上変わったら納期伸ばしてもらえるように言ってくれる?」

 まるで、自分のことを言われているかのようだった。会社の近くということもあり、もしかしたらその”担当者”というのは自分のことなのではないかと、不穏な想像が働く。

 僕は、何となくその場に居づらくなり、席を立った。カップを返しに返却口へと急いだ。その時に男の後ろをわざと通った。自分のことではないかと不安になると、なんとなく気になってしまう。パソコンの画面を見て心臓が高鳴った。おそらくパワーポイントでのプレゼン資料ではないかと思われる画面には「東亜銀行ATMシステムネットワーク増設」という言葉が並んでいた。

 自分の担当しているものだった。

 担当者馬鹿だし…男の言葉が突き刺さった。

 僕はカップを返却口へ返すと、ため息を一つついて、店の扉へと向かった。今日は本当についていない。


 外の雨は止む気配が全くなかったが、僕はこの場から逃げ出したい一心だった。持っていたのはバッグと会社の名前が入った紙袋だ。別に仕事を持ち帰っているわけではない。書類だけ持ち帰って家で仕事をしている振りをしているだけだ。ソファーに座っている男のパソコンの画面に映っていた東亜銀行の書類も入っている。本当に入っているだけだ。

 傘もなく、困っているのを周りの人に気が付かれないように入り口の近くで携帯電話を見てごまかしていると、人が近づく気配がした。

 ソファーに座っていた男が電話を終え、こちらに向かってきた。僕は会社の名前の入った紙袋を隠そうとした。しかし、もう間に合わなかった。

 男は紙袋を見ると、僕のほうをちらっと見た。店の扉に向かうと折りたたみの傘を広げ、足早に出て行った。

 おそらく、男は気が付いたのだろう。東亜銀行の物件はまだ始まったばかりで、担当者同士ではまだ顔を合わせていないが、発注先の元請業者の人とは電話で話をすることがあったが、その他の専門業者とは顔すら合わせない。今日もその一人に気付かれただろうが、まさか自分が担当している物件の担当者だとは思っていなかっただろう。それが通用するから僕は今の会社でやっていけているのだ。それがなければあった瞬間に文句を浴びせられることはよく分かっていた。

 僕はもう諦めて、駅まで走ることにした。こういうところで傘を持っていない辺りが、自分でも大嫌いだった。

 明日はスーツをクリーニングに出そう。


「よう。今日もここでサボりか?」

 いつもの喫煙所は心のオアシスだ。そこでよく顔を合わせる26階の中央商事という総合商社に勤務する河島だ。

「まあな。でもあんまり長い時間いると課長がうるさいから」

「お前のところなんかまだいいよ。うちなんか喫煙所行く回数数えて、一日5回までなんて言い出しやがってよ」

「それ、お前のせいなんじゃねぇ?」

 僕らはサボり仲間とでも言えば正しいのだろうか。会社が違うが、ビルの喫煙所が20階にしかないので他の会社の人とも話をする。

 河島と話すようになったのは、僕が顧客を怒らせて、本当にオフィスに戻りたくなくなかったので喫煙所に1時間いたときのことだった。その時に、15分おきに喫煙所に来ていた河島が僕に話しかけてきたのだ。今でも忘れもしない、最初にかけられた言葉が「お互いダメ同士だな」だ。

「なあ、お見合いパーティーって興味ある?」

「なんだよ、急に」

「まあ、お前も職場で結婚はまだかとかいろいろ言われてるって話してただろ? うちの職場も一緒でさ。そろそろ考えないとなぁって考えてるんだよ」

「……。結婚か」

 昨日も雑誌を見て考えていたところだ。同じ世代の独身が考えることはあまり変わらないのだろう。

「でも、人に言われて結婚って初めて考えるものなのかなぁ」

「俺はそう思うよ。学生時代に付き合ってたのはキャバ嬢とか、クラブで知り合ったイタリア人とかだったから、結婚なんて考えなかったよ」

「…。ああ、前も話してたよな。遊んでたんだよな」

 僕は河島が以前、飲み屋で話してた話を思い出した。自分の学生時代とは雲泥の差だ。僕は家で寝ていることが多かった。

「結婚すると、遊べなくなるしな」

 それが結婚ってもんじゃないのか? 僕は喉まで出かかったが言わなかった。河島は結婚しようと思えばいつでもできると考えている典型だ。

「じゃ、考えといてよ。会費は5,000円だから」

「あ、ああ」

 僕は生返事を返すと、喫煙所の扉から出て行く河島を見送った。僕はあと5分いるつもりだった。

 結婚とは何か…。きっと永遠のテーマなのだろう。


 その日は仕事が手につかなかった。まあ、普段から仕事をしているわけではないが……。

 僕はお見合いパーティーなど本当に参加したいのだろうか。自分で自分の気持ちがわからない。ただただ回りに流されて参加するのが本当に正しいのだろうか。

 時間の無駄、とまでは言わない。何か納得できない気持ちが溢れていた。


「松村さん、EECソフトウエアの新井さんからお電話です」

 嫌な担当者から電話だ。

「はい、かわりました。松村です」

「新井ですが。何なんですか?この仕様書は?」

 また始まった。僕はここから10分近くひたすら謝った。

「こんなことだったら、お宅通さなくて、直接下請けさんとやりますよ!」

 あのカフェで会った男の顔が思い浮かんだ。

 おそらくフリーランスの高収入なのではないだろうか。彼が身につけていたスーツがそう言っていた。

 こんな毎日が続いている中、同じくらいの年で十分幸せな生活を送っている人がたくさんいる。僕はこの違いを呪うしかなかった。

 そう、極めて八つ当たり的な呪いだ。


 そうこうしているうちに定時となった。僕は逃げ出すように会社を出るとそのまま駅へと直行した。

 こんなうだつのあがらない生活をもう10年も送っている。我ながら馬鹿馬鹿しいと思う。実家に帰ろうかと考えたことも一度や二度ではない。だが、僕の実家は夜になると外灯一つない山奥の村。30半ばのデスクワークしか知らない男が帰ったところで近所から笑われるだけだった。

 ふと携帯を見ると、メールが入っていた。河島だ。

 今日の夜の飲みの誘いだ。


 東京という街は本当に何でもある。

 レストランの料理で東京にいて食べられない国の料理を探すほうが難しいのではと思うことがある。

 河島はカンボジア料理が大好きだ。彼曰く、中華とタイ料理の中間のような絶妙なところを攻めている…らしい。正直、僕には分からない。これが海外出張のある商社マンと一日中パソコンを見ているだけの偽SEとの違いなのだろう。

 今日も彼いきつけのカンボジア料理の店で待ち合わせた。

 河島は先に到着してアンコールというカンボジアのビールを飲んでいた。このビールは薄味で、とても飲みやすい。

「またこの店かよ」

「なんだよ。カンボジア料理と言ったらここだろ」

 だいぶ飲んでいるようだった。河島が先に来て飲んでいることは珍しくはなかったが、今日はだいぶ酒が進んでいるようだった。

「なあ、お見合いパーティーのことなんだけど」

 僕は、気になったことを率直に聞こうとした。そういうことには不自由していないように見えるお前がなんで誘ったんだ、と。

「そのことなんだけど……」

 河島がいつになく真剣な顔になった。

「実家のお袋に癌が見つかったんだ」