webライター 西海 登の営業日記

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小説:対岸(途中まで)

今、海に向かってミサイルを発射しまくっている某国がありますが、こんなものを書いていた時期もありました。

 

 国境にするほど幅の大きな河ではなかった。

 人間のエゴで作られた国境の殆どがそのような状態で存在している。そこでは、国境という理由だけで無駄な殺生が繰り返される。無論、命を奪われる者はどのような理由があろうと、不法入国者として処理される。

 国境警備隊が警備用に作った監視台からは、河の向こう岸がよく見えた。晴れた日はA国の首都に建設されているテレビ塔まで見えるほどだ。もしここから小型ミサイルでも発射すれば、A国の首都に到達する距離だ。

 この河は、もともと国境ではなかったのだ。かつて、この二つの国は一つの国として世界地図に掲載されていた。

 そう。あの戦争が起こるまでは。


「ここに来るといつも思うが、何でここまでして渡りたいのかな」

 国境警備隊の班長を務める柏田惣一が、いつものように部下の田中康之を連れて河岸のパトロールを行っているときにボソッと言葉を放った。辺りには、川霧が立ち込めて、水鳥が寒そうに水面下の食事を探している。

 ここは、深夜に監視台からの発砲で銃殺された不法入国者が打上げられることが多く、今朝も五十代男性の遺体をパトロールの最中に発見し、事務所の霊安室に引き上げたばかりだった。多いときでは朝のパトロールだけで十体以上の遺体を引き上げることもある。

不法入国者には銃殺を許可しているとはいえ、撃つ方も気が重い」

 柏田は田中の方を見ずそう呟きながら、川岸の石を投げた。3段水面を跳ねて、河の底へと沈んでいった。その河底には、何体の遺体が不遇の死を遂げて眠っていることだろうか。

「それが国境警備隊の仕事ですから」

 田中は柏田と違って考え方がドライだ。性格の違いによるものだ、と柏田は彼を理解しようとしていた。彼は防衛大学を卒業後、陸軍に入隊した。しかし、A国との関係は二十年前の和平条約締結後、停戦状態が続き現在に至っている。陸軍では実戦を行えないと判断したのか、三年程で辞めてしまい、警察の管轄である国境警備隊に入隊した。ここでは、確かに実戦という名の不法入国者の銃殺が行える。田中にとって、陸軍にいた頃よりは、”充実した”毎日が送れていたに違いない。だが、柏田から見れば、この目の前にいる二十代の若者が、血気盛んに発砲している姿を見るのは居た堪れない気持ちでいた。そうは思っていても、柏田に彼を注意する術はない。なぜなら彼は、職務を忠実に遂行していたからだ。その動機は何にせよこの国の法は彼を罰しない。

 A国からの不法入国者の増加したのはおよそ5年程前からだ。主な理由は二国間の経済格差によるものだった。A国での富みは一部の者たちで独占され、庶民はその日の生活もままならない状態である、とニュースは報じていた。柏田の所属する国境警備隊は第9管区と呼ばれている。ここは別名「殺し屋特区」と言われるほど不法入国者が後を絶たない管区だ。   

 理由はこの河にある。河幅はおよそ二キロメートル、最大深さ三メートルのこの河は、国境と呼ぶにはあまりにも頼りない。それに加え、理由ははっきりしないが、対岸のA国側の国境警備が全くと言っていいほど行われていなかった。この国にA国からの難民申請を受理されることなどあり得ない。そうなると、生活に困ったA国民が国境を命懸けで突破しようとするのだ。

 それが、柏田の警備する殺し屋特区の実情だ。

 不法入国者を銃殺してもよくなったのはここ最近だ。数年前、A国から不法入国した者による凶悪犯罪が相次いだ時期があった。彼らは国境を越えることができても、この国でまともな職に就くことなどできない。必然的に裏社会の人間に成って行く。この国の過激派も、死をも恐れないA国の人間を重宝した。その結果、自分の主張を通すためだけの無益な殺人と犯行声明が繰り返された。A国はこうしたテロを引き起こす人間を送るために対岸の警備をあえて手薄にしているのかもしれなかったが、柏田の想像の域を出なかった。

 当然のことだが、世論は不法入国規制の強化を政府に求めた。時の内閣は、改正国境警備隊法と、新案の不法入国者規制法案を国会に提出し、可決された。

 国境警備隊での不法入国者の銃殺が事実上容認された。国境警備隊が殺し屋集団となったのはこの時からだ、と柏田は思っている。

 この日も柏田と田中は、夜勤からの延長で河岸のパトロールをしていた。柏田が仮眠をとっている最中に、銃声が遠くで鳴り響いた。おそらく田中が撃ったものだった。銃は撃ち方でくせが出る。音も個人差があるが、誰が撃ったかは、銃声のタイミング等で人数が限られていればなんとなくでも分かるものだった。柏田は銃声を聞き、少し眠ろうと目を閉じたが、やはり寝ることはできなかった。いつものことだ。

 柏田がそんな眠れない夜を過ごしたことは、隣にいる田中は知る由もない。田中はこんな日々を過ごしていても、顔色一つ変えることはなかった。柏田は、田中がいとも簡単に銃を発砲し、狙いの先にある人間が叫び声をあげても、次の日の朝には何事もなかったかのように振舞っているのを見ると、彼は希代の大物か、感情の欠落した殺人機械なのか、分からなくなることがあった。

 柏田がそんなことを考えながら歩いているのを隣の田中は知っているのか、川霧はさっきよりもより深くなったように思えた。まるで、田中の心の闇を柏田に隠しているかのように。

「男性ですかね?」

 田中が突然口を開いた。柏田にはよく見えなかったが、霧の先に打ち上げられた遺体を見つけたらしい。

 しばらく進むと、柏田にもその目に遺体を確認した。短髪で大柄な体型をしていた。顔は眉がはっきりしていて、顎がすっと伸びていた。国境を越えようなどと考えなければ、それなりに出世をしてA国の要職にでも、就いていたかもしれない。柏田はその遺体の首に手を当てた。

「脈があるな」

 続けて耳をその男の口元に近づけた。息がある。

「身分証がないか探せ」

 田中は彼のポケットを探り出した。すると、財布のような入れ物が見つかる。

「これは」

 田中が聞こえるか分からないほどの声を発した。柏田は田中の方に向き直り、開いている財布に目をやった。


 A国  軍事参謀本部

 二人に緊張が走った。田中の開いた財布に顔写真入りのIDカードに記載されていた文字が異常事態を物語る。

「A国の軍人か?」

 柏田は田中に訊いたが、田中は黙ったままだ。柏田も身分証を見たので分かっていたが、言葉を漏らさずにはいられなかった。

「すぐに保護しよう。見たところ、足に銃弾を負って溺れたようだ」

 柏田はすぐに冷静になり、田中に指示をした。だが、田中は相変わらず、黙ったままだ。

「こいつらか」

 また、田中は声にならない声を出した。柏田は嫌な予感を感じながらも、倒れた男の両脇を抱えていた。

 次の瞬間、田中が突然自動小銃を空に向けて、一発放った。

「おい!  どういうつもりだ!」